2012年8月4日土曜日

129. EOS M (ドミノゲーム再び)

遅ればせながら、EOS Mの話をさせていただこう。
長らく待たれていた業界最大手のキヤノンの、ミラーレス市場参入。
キヤノンのデジタル一眼レフをメインに使用している自分としては、気になる存在だった。
このブログの中でも、既に何度かその存在に触れてきた。


そして、去る7月23日、ちょうど西表島でピナイサーラの滝を楽しんだ日、EOS Mという名称でキヤノンのミラーレス機が発表された。発売は9月とのことだ。




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7月1日の記事の中で、キヤノンのミラーレス機について、僕は以下のように記述している。

122.スマートフォンがカメラを進化させる(ドミノゲーム)http://7billionth-essay.blogspot.jp/2012/07/122.html

ちなみに、キヤノンのミラーレスには様々な噂が飛び交っているが、一番多い物は、G1Xの1.5インチセンサーを流用して作る、というものだ。これは、既存のAPS-Cの一眼レフ達に配慮(遠慮)しつつ、厳格に「ミラーレス」と「デジタル一眼」をラインで区別するやり方であり、大御所のやることとしては、正しい。同じく大御所のニコンも、まったく同じ戦法で、ニコン1という1インチセンサーを搭載したミラーレスシリーズを展開している。しかし、一カメラファンからすると、まったくもってつまらない戦法でもある。ミラーレスを単に「エントリー機の代替品」くらいにしか思っていないのであれば、最も知性溢れる選択なのだろうが、他社が既に保有しているシェアを奪い返す、という目的があるのであれば、もっともっと強力なコンセプトが必要だ。動画を重視する戦略(Cinema EOSシリーズなど)を展開しているキヤノンとしては、ミラーアップ状態が持続しているようなミラーレス機は、その動画性能を発揮する非常にいい「舞台」なわけで、それを既存品に気を遣ってちまちました戦略を取った結果、大成しないのであればもう本当に失望としか言いようがない。とはいえ、玄人の方々からすると、「APS-Cサイズにすると、レンズが大きくなってしまいどうしても不格好になってしまう。全体の大きさも、SONYのNEXシリーズが限界であり、ミラーレスで小型化するという目的が達成できない。」という意見もある。これも理解できるし、そのような読みはニコンがニコン1を始めたときにもあったのだろう。なので、1.5インチセンサーでミラーレスが出るのだとしても、それはそれで容認はするのだが、ただ、せめて、像面位相差AFは搭載してほしい。また、あのG1Xのデザインをそのまま踏襲することだけはやめてほしい。本当に。そして、動画性能を売り文句として、スッキリしたシンプルなモデルで、EVFありモデルとなしモデルを同時発売したら、それなりの話題にはなるはずだ。その上、別のラインとして、「フルサイズのミラーレス」が出たら相当素晴らしいが、そうなるとフランジバックの異なるマウントがEF&EF-Sマウント、1.5インチミラーレス用マウント、フルサイズミラーレス用マウントと3種類も混在する状況になるので、コスト意識の高いキヤノンはそんなことしないんだろうな。

この時点では、1.5インチセンサーの噂が支配的で、僕自身もそうかと思っていた(諦めていた)のだが、果たして登場したEOS Mは、APS-Cセンサーを搭載していた。
結果として言えることは2つある。

1.キヤノンは思ったよりミラーレスに大きな可能性を見い出している。
最大のライバルであり、かつ既にデジタル一眼レフに主力製品があるという商品構造が似通っているニコンは、小型の1インチセンサーをミラーレスに採用し、既存のAPS-Cサイズのデジタル一眼レフを保護する選択をとったが、キヤノンは違った。ニコンよりキヤノンの方が、思いきった選択をしていると思う。
APS-Cセンサーを積んでいるということは、AFの精度さえ改善すれば、APS-Cサイズのデジタル一眼レフを代替するポテンシャルがあるということだ。これを敢えて積んできたということは、それをするだけの価値をミラーレス市場に(ようやく)見い出したのだろう。それは、ユーザーからすると、在るべき姿に近く、好感が持てる。


2. APS-Cサイズのセンサーは、ミラーレスがメインになる可能性が高まった。
これは長期的な話だが、撮像素子面内にAFセンサーを配置する「像面位相差AF」は今後確実に進化していく技術だ。この技術が進化すると、ミラー有りのデジタル一眼レフが得意としている高速度のAFがミラーレス機でも可能になってくる。さらに、EVF(電子ビューファインダー:液晶画面をファインダー内で覗くようなもの)も進化を続け、液晶の表示速度(リフレッシュ速度)が向上すれば、OVF(光学ビューファインダー:ペンタプリズム等で実際の光を見るファインダー)の代替となる日もやってくるだろう。そうなると、中級機以下のミラー有りデジタル一眼レフでできることは、ミラーレス機で代替できてしまうようになる。


こうなってくると、苦しいのがニコンのニコン1シリーズとPENTAXのAPS-Cサイズのデジタル一眼レフだろう。
ニコン1は、既にSONYからサイバーショットRX100が出ているように、コンパクトデジカメにも同じサイズの素子(1インチ素子)が積まれるようになってきており、これら高級コンデジとの差別化が難しくなってしまう。近い将来、「レンズが交換できるコンデジ」という位置づけに成り下がってしまう可能性がある。(つまり、PENTAXのQシリーズと同様、悲しい結末を辿る可能性が出てきた。)

また、PENTAXが厳しいのは、まず、PENTAXのデジタル一眼レフには、フルサイズ機が無いということである。APS-Cセンサーを積むミラーレスが一般的になってくると、「画」として同じサイズの素子を積むミラー有り機との差を出すのが厳しくなってくる。そうなると、ミラー有り機は「それだけかさばるのなら、フルサイズじゃないと。」となってくる。しかし、困ったことにPENTAXにはフルサイズのデジタル一眼レフを作る体制が整っていない。既に古い話かもしれないが、今年のCP+(2月)でPENTAXの方に聞いた話だと、「フルサイズへの進出は厳しい。現状のラインナップだと、フルサイズに対応できるレンズがない。」ということだ。元々KマウントのレンズはフルサイズをカバーできるFAレンズというものがあったのだが、デジタルになってから、APS-C機に注力するということで、FAシリーズはリミテッド以外はディスコンとなり、APS-Cに最適化したDAシリーズがメインとなった。この選択は、少ない経営資源を集中するという意味で正しいのだが、今後の展開として、フルサイズ進出の足かせとなってしまっている。

このように、EOS MやSONYのNEX等、APS-Cミラーレス機の一般化によって、上にも(APS-Cデジタル一眼レフ)、下にも(ニコン1やm4/3)ドミノゲームが始まる可能性が出てきた。

PENTAXが一発逆転を狙うのなら、レンズを一から作り始めても良さそうな「フルサイズのミラーレス機」を作ることだろう。ミラーレス機は、フランジバックが短いため、レンズを一から作り始めるにはいい理由(カモフラージュ、または大義名分)になる。さらに、これは妄想だが、OLYMPUSのOM-Dのように、往年のMXシリーズを彷彿とさせるようなフルサイズミラーレス機(EVF有り)を出してくれば、俄然面白くなってくる。

一方、m4/3陣営やニコン1は、レンズとボディとのバランスがいい、スタイリッシュである、というデザインに訴求する戦略を取らざるを得ないだろう。ここだけは、APS-C陣営には物理的に真似できない(多少レンズの明るさを犠牲にすればそこそこはできるはずだが)芸当なので、それを多いに謳えばよろしい。OM-Dは、いい例だと思う。

さて、EOS Mに話を戻そう。
EOS Mのスペックは、ほぼEOS Kiss X6iと同じで、像面位相差もある。センサーも共通だ。しかし、サイズはm4/3機に迫る小ささで、小型化に熱心ではなかったキヤノンとしてはよく頑張っていると思う。デザインは、正直、それほど好みではないが、G1X程ずっこけてはいないと思う。もう少し、角張った形が良かったのだが。
問題は操作系で、これは実機を触ってみないと分からないが、タッチパネルで操作するやり方がメインなため、直感的な操作はし辛そうだ。

理想的には、GR-Dの操作系だ。
人差し指で操作するダイアルと、親指で操作するダイアルの2軸で操作でき、絞りと露出をアナログでコントロールできる。こういったダイアル搭載モデルは、中級機〜ハイエンド機に搭載してほしい。その上で、EVFを搭載してくれれば、確実に買いだ。
その上で、多少明るさを犠牲にしても構わないから、沈胴式の小さな標準ズームが出たらいいが、換算35mmのパンケーキ(EF-M22mm)が出ているだけでも御の字だ。

とりあえず、早く実機に触れてみたい。