2012年10月20日土曜日

140. 理想のカメラ(実現できるのは・・・)

ニコンのD800は、2012年3月22日に発売された。
3680万画素の35mmフルサイズセンサーを搭載しており、2012年現在としては、「高画素機」と目されている。

質実剛健な造りと、圧倒的な高画素(当時ライバルと目されていたキヤノンのEOS 5D MkIIIは2230万画素なので)、そして、何よりその安価な価格設定(2012年10月20日現在で最安値は23万6千円。一方5D MkIIIは27万円)で大ヒットしている。

3680万画素について、発表当時は「そんなに画素数はいらない。」「画素数が多過ぎると画素ピッチが狭くなり、結果、ノイズが乗りやすくなる。画素数は据え置きで高感度耐性を上げてくれ。」と否定的な意見が多かったが、蓋を開けてみれば、「案外高画素でも、縮小して(といってもA3ノビ程度)印刷する分にはノイズが見た目上キャンセルされ、むしろディテールを残す良い効果を発揮する」ということが次々と示されていった。

一方、「画素数据え置きで、高感度耐性を上げる」という方向(ある意味、世間一般の支持する常識的な方向)に進んだライバル機5D MkIIIはDxO Mark scoreなどで先代の5D MkIIから十分な進化を示せず、さらにスコア上でD800に大きな差をつけて負けてしまった。
(ただし、DxO のスコアは画素数が大きい程有利な傾向にあり、必ずしも全てではないということを付け加えておく。)

5D MkIIIはそれ単体としてはいいカメラだが、価格設定がD800より4万円程高いということもあり、結果として、「思ったよりヒットしなかった」というのが本音なところだ。先代のMkIIの評価が高かったため、ファンの期待が大きすぎたというのもあるかもしれない。(という自分もMkIIを使っているため、正直言ってこの結果はつらい)

さて、巻き返しを図るキヤノンは、4700万画素の高画素機を開発中、と噂されている。一方で、ニコンにセンサーを供給しているSONYは、5000万画素の高画素機を開発中と言われている。

まず、キヤノンはニコンと並び一般的には一眼レフの王者と見られがちだが、ことセンサー(撮像素子)の市場から考えると、むしろ挑戦者に近い。
というのも、センサー市場では9割近くがSONY製だからだ。

SONYは、ニコンにも、OLYMPUSにも、ペンタックスにもセンサーを供給している。SONY自身もカメラを製造しているので(正確に言うとセンサーを作っている会社はSONYの子会社だが)、これらカメラメーカーはライバルではあるわけだが、同時に、顧客でもあるわけである。

つまり、「他社が儲かれば、自社も儲かる」というおいしい仕組みをSONYは持っており、センサーを中心に見ると、SONYこそが王者なのである。

一方、キヤノンはあくまで自社製造路線を崩しておらず、また例えば台湾のOEMメーカーへの外注も極端に少ない(ただし、台湾の小会社へは依存している)。センサー市場では、キヤノンとパナソニック、それからAptina社などがSONYに対抗しているが、それらを足しても10%程度。

これはPCのプロセッサでインテルが一人勝ちしているのとほぼ同じ状態だ。


さて、話を元に戻すと、王者SONYは5000万画素で、挑戦者キヤノンは4700万画素。
このような高画素化はどこまで進展して行くのだろう?


僕は、「2億画素」くらいまで行ってもいいと思っている。

いやむしろ、理想的な、究極的なカメラというものには、2億画素程度は必須だとすら思っている。

こう言うと、大方のカメラ好き(カメラオタク)の諸先輩方には一笑にふされるだろう。

もちろん、現時点では、画像処理エンジンの処理速度が追いつかず、連射速度に問題があるだろうし、ノイズも十分に制御できないだろう。そもそも、2億画素の35mmフルサイズセンサーには、レンズ自体の解像力が追いつかない、という意見もあると思う。(3680万画素のD800でさえ、レンズを選ばなければその解像力を十分には発揮できない)

しかし、あくまで「2億画素が理想的である」と考えるには以下のような理由(と仮定)がある。

  • まずセンサーのサイズは36mm×36mmの正方形センサーとする。(理由は後に述べる)
  • ファインダーは、リフレッシュ速度が十分高いEVFとする(どの程度の動体を被写体とするかによって「十分なリフレッシュ速度」は変わってくるが、とりあえず細かなスペックは置いておく)。
  • まず大事なポイントとして、2億画素まで高画素であれば、モアレを除去するためのローパスフィルターが不要になるということが挙げられる(レースのような高周波の被写体であっても、干渉縞が発生しないほど画素ピッチが狭い。このため通常のRGBベイヤー配列のセンサーでもモアレを気にしなくていい)。結果として、解像力が単なる画素数の増加以上に向上する。
  • 次に大事なポイントは、通常の撮影時では、デモザイク処理(RAW→JPEG処理)の段階で9画素を1画素に統合する画素統合処理を行い、2000万画素程度のJPEGを生成するという機能を付けることである。(これがかなり重要。つまり、2億画素=一枚で200Mbというアホらしい容量を通常時は抑制できる。そして風景撮りなどとにかく解像力を活かした撮影をしたいときに、2億画素開放(35mmフルサイズの領域だと1.3億画素だが)で、エッジの効いた超弩級の高解像写真を生成する。)
  • さらに大事な点は、デジタルズームを1インチセンサーサイズくらいまで可能とすることである。正方形センサーは36mm×36mm=1296、1インチセンサーは13.2mm×8.8mm=116で面積比で大体10倍くらいの差があるが、もとのセンサーが2億画素もあればトリミングした1インチセンサーの面積であっても2000万画素程度保たれることになる。つまり、デジタルトリミングをしても、十分写真になるのだ。
  • デジタルズームを1インチセンサーまで可能とすると、レンズの焦点距離は2.7倍まで伸ばせることになる。例えば、28mmの単焦点レンズ1本で、75mmまでデジタルズームが可能である。28mmのF2レンズなど小型軽量で安価なわけで、それが75mmまでF2通しのスペシャルなズームレンズになるのだ(現在そんなレンズは存在しない!※1)。キヤノンの大三元レンズの一本EF24-70mm F2.8Lレンズは大体17万くらいで950gくらいの重量があるが(2年前から愛用しているが重い)、これよりも(若干広角は負けるにしても)明るくて小さなズームレンズが4〜5万円で手に入ることになる。なんと素晴らしいことか。そして、これは「レンズで儲ける」という商売を得意とする老舗メーカー、キヤノンやニコンには手痛い話となる。
  • 画素統合は、デジタルズーム中も連動することとする。つまり、35mmセンサーサイズ時にも2000万画素、APS-Cサイズ時も2000万画素、フォーサーズサイズでも2000万画素、1インチセンサーサイズでも2000万画素と最終のJPEGサイズは常に2000万画素となるようにアルゴリズムを組むのである。
  • 同時に、ファインダー上の画像もデジタルズームに追従して拡大することが必須である。このため、必然的に、光学ファインダー(OVF)ではなく、電子ビューファインダー(EVF)を搭載することが必須となる。
  • また、縦横のフレーミングの回転も、これまではカメラそのものを持ち替えて行っていたが、センサー上のトリミング範囲を縦横交換することによって可能となる。これが、36×36mmの正方形センサーを搭載する所以である。こうすることで、フラッグシップ機にあるような「縦位置グリップ」というスタイルが不要になる。縦位置グリップには周囲のカメラマンを威圧する力があるが(もちろん縦位置も横位置も同様に違和感なく交換できるという本来の良さもあるが)、大きく重くなるというマイナス点も大きい。正直、キヤノンから高画素機が出るとしてもEOS 1DX系の縦位置グリップが付いているような大きなモデルであれば、全く欲しいとは思わない。普段使いに、アレは大袈裟過ぎる。
  • そして、画素数を最大限使いきるには、30×30mmの真四角領域(対角線長43mmで、35mmフルサイズセンサー用のレンズがギリギリカバーできる最大のイメージ範囲)で撮影するという選択肢がある。これは、およそ1.38億画素で、正方形の比率から中判の6×6写真のような印象を与えるだろう。


というわけで、まとめると「2億画素のカメラ」によって、

  • 明るい単焦点レンズを夢のズームレンズに変換することができる。この結果、大きく高価なF2.8通しのズームレンズが一切不要になり、レンズも含めたカメラ全体の大きさを小型化できる。
  • ローパスレスによる解像度の向上をベイヤー配列センサーでも(特別なアルゴリズムを必要とせず)実現できる。
  • 36mm角の正方形センサーによって、縦位置への変換をボタン一つで行えるようになり、縦位置グリップが不要になる。
  • 30×30mmという新しいフォーマットが副産物として生まれる。なお、この場合、1.38億画素であり、いわゆるフルサイズの36×24mmでは1.33億画素である。


以上が、「理想的な、究極的なカメラには2億画素が必須」と考える理由だ。

こんなカメラが出てきたら、既存の高価な交換レンズを主体とする一眼レフの市場は完璧に過去のものになるだろう。


さて、こんなラディカルで素敵なことをできるメーカーはあるだろうか?

キヤノンには絶対できない。
(仮にやれたとしても、しないだろう。また、これまでEVFの技術を軽視し過ぎてきた。これからよほどの巻き返しをしなければ追いつけないだろう。さらにレンズビジネスまで取り上げられたらと思うと、もう進めないはずだ。)

ニコンにもできないだろう。
(レンズビジネスとOVFがある。)

結果として、僕は、SONY以外にはあり得ないと思っている※2。

SONYには、

  • 2億画素を実現する技術基盤が既にある。
  • レンズのビジネスモデルを守る理由がない。(むしろ、カメラ本体を売ってなんぼの商売をしている。というか、カメラ出し過ぎ。)
  • エントリー機からハイエンド機まで、徹底してEVFを搭載している(むしろ、OVFの銘機だったα900シリーズを潰してしまったという因縁すらある)

さて、今後5年間くらいの間で、どれだけ僕の理想(妄想)に、カメラメーカーが追いついてくれるだろう?

上記の理想(妄想)は、あくまでベイヤー配列のセンサーを軸に考えているが、もう一つの方向として、FOVEONのような三次元の積層型センサーという方向や有機センサーの方向もあるかと思う。こちらの方向にも期待大だ。

両者が融合して、結果として5年以内に僕の妄想が追いつかれ、追い抜かれたら、これはもう言うことなしだ。
10年以内でもOKだと思う。

いずれにせよ、高画素不要論は2012年10月時点では多いものの、各メーカーには頑張ってほしい。特に画素統合など、ソフトウェア側の進化が実はボトルネックになりそうだ。こちらの開発も抜かり無くやってほしいと思う。

理想のカメラができることを、楽しみに待っている。

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後日追記(2012年10月22日)
※1:すまん、存在していた。不明を恥じるばかりだ。
OLYMPUS ズイコーデジタル ED 14-35mm F2.0 SWDである。
フォーサーズは2倍するとフルサイズ換算の焦点距離になるので、このレンズは28-70mmの開放F値2.0ということになる。フォーサーズはフルサイズやAPS-Cに比べると小さな撮像面でボケ量は少ないのだが、その分、レンズの中心部分の一番密度の高い光を受光できる。恐らく、撮像素子が小さな分だけ、またμフォーサーズに比べてフランジバックが長く余裕がある分だけ、明るいズームレンズを作りやすいのだと思う。

※2:あともう一社、可能性がある会社があった。サムスンだ。日本では販売されていないので余り知られていないが、サムスンは既にミラーレス一眼レフを販売しており、世界的には割と知られている。コンデジでは、既に世界シェアで10.7%取っており、富士フィルム(9%台)を抜いている。サムスンが、本当に本気でハイエンドカメラを狙ってきたら、これくらいの理想は達成されてしまうかもしれない。個人的には、SONYに達成してほしいが。