2012年9月14日金曜日

136. 歴史的一日(キヤノンが最近つまらない)

午前中、アップルから、iPhone5の発表があった。
朝からニュースで取り上げられ、より薄く、より早く、より長く使えるようになった「正常進化版」のiPhone5は奇をてらった機能はないけれども、確実にヒットするだろう。

そして、午後。
ニコンから、兼ねてから登場が噂されていた「廉価版」フルサイズ機 D600が正式発表された。
一日にこれほど注目する製品が登場するのも珍しい。
歴史的な一日と言っていいかもしれない。




これまでフルサイズ(24mm×36mmの大型撮像素子。フィルム時代の35mmフィルムと同じ撮像面積であり、そのため「フル」サイズと言われる。デジタル一眼レフカメラの分野では長らく16mm×24mmのAPS-Cサイズの撮像素子が一般的で、これはフルサイズのおよそ40%の面積しかない)と言えば、プロ向け(50〜80万円くらい)かハイアマチュア向け(大体25〜35万円)だった。
しかし、D600のコンセプトは、「ミドル層」を狙った「廉価版フルサイズ機」である。

D600のスペックを見てみると、

  • 本体サイズ幅約141mm、高さ約113mm、奥行き約82mm、質量約760gと、ニコンFXフォーマットデジタル一眼レフカメラで最小・最軽量を実現。
  • ボディー各所に効果的なシーリングを施すことで「D800/D800E」と同等の防塵・防滴性も確保。
  • 有効画素数約2400万画素、新開発FXフォーマットCMOSセンサーを搭載し、高いS/N比と広いダイナミックレンジを確保。
  • AFセンサーには、39点フォーカスポイントのマルチCAM4800オートフォーカスセンサーモジュールを採用。
  • FXフォーマットで視野率約100%、約0.7倍の高倍率光学ファインダーを搭載。
  • 1920×1080/30pのフルHDに対応。映像圧縮にはH.264/MPEG-4 AVC方式を採用。
  • ワイヤレスモバイルアダプター「WU-1b」を装着することで、「D600」で撮影した画像をスマートデバイスと共有可能。
  • 約5.5コマ/秒の連続撮影、起動時間約0.13、レリーズタイムラグ約0.052秒。
  • 最高速1/4000秒、フラッシュ同調速度1/200秒、約15万回のレリーズテストをクリアした、高精度、高耐久シャッターユニット。
  • 発売日は2012年9月27日、価格はオープン。

廉価版とは言え、なかなかのハイスペックだ。
正直、キヤノンEOS5DMkIIを使っている自分からすると、十分過ぎるくらいだ。(高感度性能がどうかは分からないが)
価格はオープンとなっているが、量販店の予約価格を見たところ、196200円〜218000円といったところ。フルサイズの初値としては相当安い。

実は、以前16万円代という噂も流れていたため、それよりは高めだったと見る向きも多いかもしれないが、防塵防滴を施して、5.5コマ/秒、2400万画素というのは、かなり良い性能であり、当初の予想性能を上回っている。これを考えると、196200円は、安いと言えるだろう。

そして、何より、重量だ。
760gとは。
マレーシアからの噂で、確かに軽いとは言われていたが、事実だったとは。キヤノンのAPS-C機EOS7Dが820gだから、それよりも軽いことになる。
ついにここまで来たか、という感じだ。価格も、重量も。

軽いと言えば、一昨日(9/12)発表になったSONYの「フルサイズコンパクトデジカメ」RX1も相当画期的だと思う。
その重量、482g(!)
片手で扱えてしまうレベルである(とはいえ、フルサイズで2430万画素だと手ぶれにシビアなので、きちんと両手で構えるが)。


形はややレトロで、なんとなくエプソンのRD-1や、富士フィルムのX100を彷彿とさせる。割と好きな方だ。35mmのゾナーF2というのも、コンタックスのTシリーズを彷彿とさせて、いい感じだ。もちろん、レンズ固定式の(それもEVFが内蔵されていない)カメラに25万円はおいそれと出せはしないが、エポックメイキングという点では、間違いなく歴史に名を残すカメラになると思う。

ニコンとSONYが実に、元気だ。
一方、我がキヤノンはというと、実に心もとない。

キヤノンにはD600に対抗した廉価版フルサイズ機が噂されているが、そのスペックは今のところ次のようなものだ。

EOS 6D(仮称)

- 2200万画素フルサイズセンサー
- 可動式モニタ、フラッシュ内蔵
- 19点AF、63分割測光
- シングルDigic5+
- 連写は4.5コマ秒で4.9コマ秒ではない
- 3インチ液晶モニタ(以前にタッチスクリーンと聞いている)
- ISO12800
- 新型のバッテリーグリップ、オプションで新型のGPSとWi-Fiグリップ
- 接続ソフトと共有ソフト内蔵
- 可動式液晶は採用されない
- フラッシュは内蔵されない

引用元:http://digicame-info.com/2012/09/eos-6d.html

AFポイントにしても、画素数にしても、D600に負けている。
恐らく、防塵防滴も採用されないと思う。
こうなってくると、6Dであと注目すべき点は、価格くらいしかない。
相当安くなければ、D600とD800への流れは買えられないだろう。


2400万画素のD600が196000円で、3680万画素のD800が241000円。
対して、2230万画素の5DMkIIIが275800円である。

現在、高画素のD800に対抗する3Dxなる機種が噂されているが、その位置づけから考えると、間違いなく、5DMkIIIより高くなり、初値で450000円台というのもあり得ると思っている。

そうなると、キヤノンではニコンより7〜20万円くらい高い設定になることになる(もちろん、画素数だけで比べるのは不当であり、高感度性能であったりAF性能であったりとした、トータル性能で比べるのが真っ当であるが、それでもニコンの機種は全体的にしっかりできているという現実がある。総合力でも、大きくは見劣りしないのだ)。


他方、SONYの非常に早い新製品開発サイクルに、巨人のキヤノンは完全についていけてない。さらに、SONY製のセンサーを採用したOLYMPUSのOM-DやニコンのD800を見たところ、SONY製のセンサーは階調も豊富で、目を見張る性能をたたき出している。
このように、他社へも撮像素子を売り、他社が儲かれば、自分たちも儲かる仕組みは、食品業界の味の素と同じビジネスであり、PC業界のインテルとも重なる。
PCではアップルのMacも、もはやインテル製のプロセッサを搭載しており、プロセッサと言えば、インテルというくらい市場を席巻している。

SONYがカメラ業界のインテルになる日も近いだろう。
(カメラ業界のアップルには、どの会社がなれるのだろうか?)

キヤノンはいつまでも横綱相撲(後だしジャンケンでの勝利)が取れると思っていないで(恐らく、さすがに社内はそれなりに危機感を抱いているとは思うが)、もう少し的を絞って開発した方がいいと思う。

時代は変わってきているし、価格破壊は進んできている。


+++ 2012年9月15日追記 +++

EOS 6Dのスペックについて、新しい噂が出てきた。
恐らく、D600の正式発表に触発される形で、意図的にリークされたものと思われる。

- センサーは新開発の2020万画素フルサイズCMOSセンサー
- 画像処理エンジンはDIGIC5+
- APS-C機並に小型化されたボディ
- ボディはカバーのみマグネシウム合金
- W-Fi内蔵
- GPS内蔵
- AFは11点、中央はF2.8対応のクロスセンサー
- 連写は最高4.5コマ/秒
- シャッター速度は30-1/4000秒、シンクロ1/180秒、シャッターの耐久性は10万回
- 防塵防滴
- 液晶モニタは3型104万ドット
- 動画はフルHD(1920x1080)、30p/25p/24p
- ISO100-25600(拡張で50、51200、102400)
- クリエイティブオート
- メディアはSD/SDHC/SDXC(UHS-I対応)
- 重さ755g(バッテリー、メディア含む)
- 発売(on-sale date)は2012年12月
- 店頭予想価格はボディが195000円前後、EF24-105mm F4L ISキットが295000円前後
- (追記)ファインダーはペンタプリズム、視野率97%、倍率0.71倍
- (追記)大きさは144.5mm(幅) x 110.5mm(高さ) x 71.2mm(奥行き)
- (追記)AFユニットは低輝度に強い新型



まず、僕の想定を上回っていたのは、重量だ。
バッテリーとメディアを含んで755gというのは、大体APS-C機の60Dと全く同じで、APS-C機と同じ気軽さ(と言ってももちろんミラーレスとは異なるが)で持ち出せる。素晴らしいサイズに収めてきた。

なお、先の文章では、D600が760gとなっているが、これはバッテリーとメディアを除いた重量で、バッテリーとメディアを込みにすると、860gとなり、100gほど6Dより大きくなる。
この点で、6Dは頑張っていると言える。

また、防塵防滴は諦めるかと思っていたが、きっちり行ってきた。エントリー版フルサイズ機と言えど、そこまで手は抜かなかったということだ。

Wifi内蔵とGPS内蔵も嬉しい誤算だ。特にGPS内蔵は、旅写真で重宝する(バッテリーを喰うということもあるだろうが)。

手を抜かなかったという点では、ペンタプリズムもある。Kissのようにペンタミラーを搭載する可能性も考えていたが、そうではなかった点にはホッとした。キヤノンはなんだかんだ文句を言われても、「カメラメーカー」として真面目に考えられているなと思う。
(後は、戦略の全体像を指揮する優れた指導者がいれば文句無しなのだが。。)


AFはポイント数が前回の噂の19点から11点まで減ってしまっているが、「低輝度に強い新型」ということで、合焦の精度やスピードに期待したい。なお、ポイント数ではD600の39点からするとかなり少ないので、AFの「カバー面積」を意識する人、動体を撮りたい人には、D600の方が良さそうだ。
(自分の使い方は中央1点に絞って使うことが多いので、AFのポイント数よりアベイラブルライト下での精度やスピードを重視する。)

価格は、初値で195000円ということだが、これはD600の実売価格(値引き後の価格)とほぼ同等。しかし、元々D600は220000円が正式な(?)初値なので、そういう意味では、2万円程安い位置づけのようだ。
これはスペック差を考慮すると妥当なラインと思われる。ただ、実売の初値として18万円代が見えていないと、実質的な差がなくなってしまい、性能差の方が注目される結果となりかねない。ここらへんは、営業部隊の戦略が試されるのだろう。


さて、600Dと6Dで、今後注目すべき点は何だろうか?
個人的には、「高感度」だと思っている。

画素数こそ幾分少ないが、6Dのセンサーは「新型」であり、5D MkIIIの方向性を引き継いでいるとすると、「高感度耐性」に特徴付けされている可能性がある。
一方、作例を見る限り、600Dはそれほど高感度に強くない印象だ(と言っても、まだまだ検証データ不足で完全に推測の範囲内だが)。

ここでの差別化がうまくできれば、6Dと600Dはいい勝負をするかもしれない。

あと、どうでもいいことだが、デザインは6Dの方が好みだ。
(レンズもキヤノンの方が好みで、Lレンズの赤いラインは差し色として好ましく思っている。一方ニコンのカメラは質実剛健といった「Fシリーズの系譜」を感じさせるものなのだが、どうしても、純正レンズの金文字が気になってしまう。撮るときには見えないものなのだが、気分の問題はコントロールできないものでもある。)

両者の今後の動向に注視したい。