2011年12月21日水曜日

107. 薮原十区(7年越しの来訪)

明後日、結婚式を挙げる。
そのための準備として、今日、麻布十番にある「綱町三井倶楽部」に行って来た。
一通り、送ったドレスを広げると、昼食だ。

ここ1年程、外食と言えば、「食べログ」を見てしまう。
この口コミサイトは、下手なガイドブックより、よっぽど信頼ができる。
「麻布十番」でランキングを表示すると、「薮原十区」という店が3.9点という高得点を獲得していることに気付く。

「・・・?」

僕は、何かにひっかかった。
「薮原十区」という店名、どこかで聞いたことがあるような。

記憶を丹念に辿ると、学生時代、東京大学の駒場キャンパスに通っているときのことを思い出した。確か当時、「食」というものに徐々に目覚め始めていて、「駒場東大駅」周辺の「美味い店」というのを、今はなき「東京グルメ」というサイトで検索していたのだった。

「東京グルメ」というサイトは、後に、ライブドアにより買収され、今はライブドアグルメというサイトに変更されたが、結局、「食べログ」の人気に押されてしまい、今となっては存在感が薄くなってしまった。


それは、さておき、「薮原十区」である。
駒場にあった「薮原十区」は当時でも、非常に高い評価を得ている魚料理を出す店だった。ただ、ディナーで1万5千円は学生には高すぎた。
そのため、行ってみたいけれど行けない、という状態のまま、やがて、研究室が大阪大学に移転し、自分も大坂に引っ越し、その後、東京に就職して、、という流れの中で、その存在を忘れてしまっていた。

その淡い思い出の「薮原十区」と麻布十番の「薮原十区」とはどんな関係なのか。
たまたま、名前が同じなのか。
それとも、系列店なのか。

ネットで調べてみると、すぐに分かった。
正解は、
「同じ店」ということだった。

つまり、駒場にあった「薮原十区」が麻布十番に移転した、ということなのだ。

なんという偶然。
駒場東大にいたときは、僕側に、この店に行けるだけの準備が整っていなかった。
しかし、今は違う。
昼は安いというのもあるが、今であれば、当時よりもこの店に行きやすくなっている。
それは、「準備が整った」ということなのだろう。

僕個人からすると、しかるべき準備が整ったら、そこに店が現れたような、不思議な感覚を抱いた。

そんなわけで、薮原十区に7年越しでようやく訪れることができたのである。
大体、麻布十番という場所は、結婚式や仕事など、何らかの「訪れる理由」がない限り、行かない場所だろう。だからこそ、その場所が、自分にとって「行く必要がある場所になった」ことと、「その場所に薮原十区が現れた」ことが、偶然にしても奇遇に思えてならなかった。


また、この店が看板もなく、カーテンも閉まっていて、一見さんお断りな風情を漂わせていることも、この不思議な感覚を抱かせる一因となっている。

店内に入っても、メニューがない。
口頭で、今日のメニューを伝えられるだけだ。
広いキッチンには主人が1人で、腕を振るっている。

席と席が離れた、すこしガランとした店内。
シンプルな内装。
オーダーをすると、「時間がかかるけど、いいですか?」と聞かれる。
全てが、「味第一優先」であることを示している。

果たして、僕の頼んだ「鰆の醤油焼き」はふっくらとした焼き上がりで、水分が多い、旨味を閉じ込めた仕上がりだった。
奥さんが頼んだ「カジキ」は、濃厚な脂が載っていて、まるで肉のような焼き魚だった。
どちらも美味。

薮原十区に限らないが、
自分に準備ができると、自然と、それが現れてくる。
今回の再会を通して、人生とはそういうものなのだな、と思った。