2011年11月27日日曜日

105. 最高の一日

最高の一日の出来事は、最高の一日のうちに書くべきだろう。

今日、宮崎駿監督に会った。
両親が住む町の喫茶店で、結婚式の打合せをしていたのだが、
フラッと監督が入って来たのだ。

実は7〜8年前に、僕はこの町で宮崎駿監督を見かけたことがある。
そのときは、「なんでここに?っていうか、本物?」と
存在自体を疑ったのだが、その容姿は100%宮崎駿監督で、そっくりさんにしては出来過ぎているなぁと思ったものだった。
(すれ違ったのは、畑のすぐ傍の一本道で、決して有名人とすれ違うようなオシャレな(?)環境ではない。そのことも相まって、この記憶は少し現実離れした、夢のような記憶になっていた)

それが、今日は喫茶店で、2m程先の席で、ノートを開き、万年筆でモレスキンのノートに何かの構想を書き綴っているのである。
すれ違う、のとは訳が違う。
すぐそこに、宮崎監督はいるのである。

ここで、僕は一瞬躊躇した。
「今話しかけたら、仕事の邪魔をすることになるんだろうな。
嫌な顔されちゃうかもな。
そしたら、こっちも若干嫌な感じになってしまって、
これから宮崎駿作品をニュートラルな気持ちで観れなくなってしまうのかな。」
そんな一抹の不安がよぎったのだが、
もう、こんなチャンスは二度と訪れない。
意を決して話しかけた。

「宮崎駿さんですよね?」

僕の声は緊張で小さく、監督は

「え?」

と聞き返した。
そこで、もう一度聞く。

「宮崎駿さんですよね?」

「そうですよ。」と。

「いつも観てきました!握手をしていただいてもいいですか!?」

もう直球である。
「いつも観てきました」というのも日本語的に訳が分からないのだが、(例えば、毎週やっているテレビ番組の司会者に対してなら成り立つが、映画監督に「いつも」というのは正確には不正確だ)それでも勢いで言ってしまった。

すると、監督はちょっと笑いながら、スッと手を差し伸べてくれた。
がっしりと、握手した。
無骨な、温かい手だった。
この手から、ナウシカの絵が生み出され、
この手から、トトロやキキやシータやパズーやポルコロッソが生み出されたと思うと、
感激だった。

宮崎監督は隣にいた僕の奥さんをみて、
「奥さんですか?」
と聞いてくる。

すかさず、嫁さんも

「小さい頃から大好きで、ずっと観てました!」
と、握手をしてもらう。

いい人だ。
仕事をお邪魔してしまって恐縮だったし、
正直、話しかけるのは勇気がいったけど、
しっかり話をしてもらえた。
それが感激過ぎて、その後、結婚式の打合せは上の空。
ずっと「宮崎監督と握手できてよかったなぁ〜」と何度も何度も振り返ってしまった。

それにしても、ノートにはびっしりと構想が描かれていた。
それは絵ではなく、文字だった。

宮崎監督は今も現役で創作活動をしているということだ。
午後の喫茶店で、ノート一冊と万年筆一本で構想を練る。
そんな「創作者」の姿を目に焼き付けて、その場を去った。

監督、ありがとうございました。


さて、その4時間後に、嫁さんのお父さんと会食をした。
お義父さんは、とあるカメラメーカーのカメラ部門のトップで、
毎回、色々なことを教えてくれる。

僕は、実はあまり知られていないのだけれど、カメラ好きだ。
デジカメウォッチ(新製品の発表等、正式情報がいち早く載るサイト)とデジカメinfo(アングラな新製品情報、新製品の噂がいち早く載るサイト)を観ることが、日課になっている。
(お義父さんはたまにデジカメウォッチに出てくるので、その度に「うおっ」となる。)
そんなわけで、お義父さんとは、新製品に関してかなりフレッシュな状況で議論ができて、とても、とても、極めて愉しい。

特に今回は、お義父さんが前回話していた新機種を一通り触って、自分の中で意見がまとまっていたので、話が弾んだ。
デジカメウォッチで見た、あのインタビューのことや、デジカメinfoで見た、あの新製品のことも、かなり本気で議論できた。

今回印象的だったのは、とある機種の問題点を問われて、
答えた問題点が、プロのカメラマンから寄せられた問題点の1位と2位にまんま合致していたことだ。
プロカメラマンと同じ意見だったというのが素直に嬉しかった。

また、これから始まる新シリーズの設計思想に関しても、周辺情報から予想していたロジックを正直に話してみた。

この製品の市場での立ち位置から考えて、◯◯には制約がある。
その制約を考えると、××はありえない。
とすると、△△は、□□にならざるをえない。
しかし、一方で、デジカメウォッチのインタビューでは、このように答えている。
そのギャップを埋めるのは・・・

この内容はここでは明かせないが(まぁ実際はここで明かしても世の中的には全然問題ないかもしれないけど)それがそっくりそのまま、開発チームの思考過程と一致していたというのは、僕にとっては非常に嬉しいことだった。
やっぱりそうか、と。

これからの新製品は、ある分野でかなりの風雲児になりそうだ。
2012年も、カメラから目が離せない。