2009年12月17日木曜日

043. 新型インフルエンザについて(素人の戯れ言)


2009年4月26日、メキシコに端を発したブタ由来新型インフルエンザ(AH1pdm,または S-OIV)のヒト-ヒト感染は、瞬く間に全世界へと拡大し、
2009年6月11日、ついにWHOは新型インフルエンザの「パンデミック(世界的大流行)」を宣言した。

今回は、2009年に世間を騒がせたこの新型インフルエンザについて、ちょっとだけ、僕なりの考えをご紹介したい。

なお、僕は医師ではないし、薬剤師でもないし、疫学者でもなければ、自然科学の研究者でもない。つまりは、素人さんである。単なるサラリーマンである。このため、ここに書かれた内容には、何の科学的ないしは医学的根拠はないし、きちんとした疫学的な解析結果に基づいたものでもない。

(そういうきちんとした考察は、プロの研究者の論文を待つとして、ここでは「今、まさにここで起こっている事態」を素人なりに解釈してみたいというのが今回の主旨だ(一種の「遊び」である)。実を言うと、素人がこんなことに言及できるのは、「今この瞬間」にしかありえないのだ。というのも、現在進行形の新型インフルエンザの拡大に関して、きちんとした論文が出るのは恐らく早くても4月だ。今、研究者達はやっきになって論文のデータを集めている最中で、そのデータにきちんとした解析と考察を加えた上で、論文を執筆し、それが雑誌の査読を通り、掲載されるまでのプロセスにはあと数ヶ月を要する。ということは、「今この瞬間(2009年12月下旬)」では、世界の誰もが「2009年の新型インフルエンザの流行(北半球)」に対して、「これだ!」という解釈を与えることはできないのである。この点で、今こそ自由にこの話題を素人が語る(騙る?)ことができる!というわけで、日々、国立感染症研究所の感染症週報を眺めながら、密かに思い描いている「インフルエンザの今後」について、勝手気ままに書いてみたい。なにしろ、僕は素人なのだ。)

というわけで、「所詮は素人さんの戯れ言である」という点を承知の上で、「これからインフルエンザってどうなるの?」といった内容にご興味のある方は、以下読み進めていただきたい。


お題:季節性インフルエンザはこの世から消滅してしまうのではないか?

国立感染症研究所の「感染症週報」を見ていると、奇妙なことに気付く。
それは、本来11月〜12月になると流行り始めるはずの「季節性インフルエンザ」が全く見当たらないのだ。(季節性インフルエンザとは、平たく言えば、「従来型のインフルエンザ」である。つまりは旧型。季節性インフルエンザは、細かく分けると、AH1亜型、AH3亜型、B型の三タイプに分かれる。2009年に新型(AH1pdmやS-OIVなどと表記される)が加わり、現在、ヒトーヒト感染が起こっているのは、4タイプということになる。)

以下、週報から抜粋したインフルエンザウイルスの検出報告割合だが、2009年の28週(7月上旬)から49週(11月末)の流行状況は、 実に99.11%が新型インフルエンザによるものである。


以下のグラフを見てみると、2009年の35週以降(つまり、8月中旬)から、赤の新型インフルエンザのみが流行しているのがわかる。



さらに、過去10年間の流行状況と比較すると、今年がいかに異常であるかはっきりするだろう。

赤が2009年の流行状況である。
いつもは流行らない時期に、2009年だけが流行しているのである。それも、先述したとおり、ほとんどが新型。

通常、季節性インフルエンザは、47週(11月中旬)から流行が始まるが、今年に関して言えば、一向にその気配が感じられない。

医師の間では、つい1〜2週間前まで、
1月になれば、季節性インフルエンザが流行り出して、二峰性(ふたつのピークがあること)の流行となるだろう。」
という予想がまことしやかに(かつ、もっともらしく)流れていたが、12月も半ばを迎えて、一概にそうとは言えない状況になってきた。

さらに、参考までにすでにインフルエンザの流行シーズン(つまり冬季)を終えたオーストラリアの流行状況を調べてみた。

 出展元:オーストラリア厚生省HP
http://www.health.gov.au/internet/main/Publishing.nsf/Content/cda-surveil-ozflu-flucurr.htm

茶色が新型インフルエンザ、緑が新型とも季節性とも同定できていないもの、そして青が季節性インフルエンザである。
緑の「どちらとも同定できていないもの」を新型と考えるか季節性と考えるかで解釈が異なってしまうが、仮に半々であったとしても、少なくとも「ピークが二つになることはなかった」ということが分かる。
さらに、ラジカルではあるが、仮に緑が全て新型インフルエンザであると仮定すると、「季節性インフルエンザはほとんど流行しないまま冬季を終えてしまった」ということになる。

僕はこれらデータが、

「今まさにこの瞬間が、インフルエンザの淘汰の歴史そのものを現しているのではないか?」

と考えている。
生物界に「自然淘汰」というものがあるのはご存知だろう。それがまさに、今、ここで、起こっている。(のかもしれない)

もともと、季節性インフルエンザと呼ばれているインフルエンザウイルスは、パンデミックを起こしてきた。
1918年に「スペインかぜ」が流行し、世界で5億人が感染、4千万人以上の死者を出したが、この「スペインかぜ」とは、実を言うと、季節性インフルエンザのAH1亜型なのだ(正確には、その後1977年にソ連を中心として再流行したウイルスが現在のAH1の直系であるが。なお、参考までに言うと、今年の新型インフルによる全世界の死者は、1万人程。スペインかぜの1/4000である。そういった意味では、スペインかぜの時よりも被害は少なかったと言える。とはいえ、1万人が死亡しているのはとてつもないことだが)。

また、1968年にアジアを中心として「香港かぜ」が大流行を起こしたが、これも現在では季節性インフルエンザとして定着しているAH3亜型によるパンデミックであった。

つまり、これまでの歴史から言えることは、

「パンデミックを起こした新型のインフルエンザは、その後、季節性インフルエンザとして定着し、毎年流行を繰り返す」

ということになる。

僕は素人であるから勝手気ままに以下のように予想(空想)している。

・少なくとも、季節性インフルエンザのうち、AH1亜型はこの世界から淘汰され、消えてなくなる。(そもそも、新型インフルエンザとは、このAH1亜型がさらに変異したもので、親戚に近い存在である。素人考えとしては、AH1亜型と新型インフルエンザは、非常に近い感染特性(流行時期がかぶっている&感染しやすい人がかぶっている)を持っており、その結果、お互いに淘汰し合う間柄ではないかと考えている。これ、超テキトーだけど(笑))
AH3亜型とB型は、その抗原性が新型インフルエンザとは異なることから生き残るものの、二峰性のピークを出現させるほど流行はしない。(これも、明確な根拠なし。おいおい(笑))
・上記の結果、早晩、WHOは「新型インフルエンザ」という呼称を撤廃し、次のような宣言を出すだろう。
「新型インフルエンザは、季節性インフルエンザになりました。これから毎年流行るので、みなさん、うがい、手洗いを励行しましょう!」

そして、日テレの朝の番組「スッキリ」で、テリー伊藤はこう言うのである。

「新型インフルエンザって何だったんでしょうねぇ(笑)」

と、まぁ素人考えをつらつらと述べてきたが、もしこの予想が当たったのなら、実は人類にとって非常に幸運な淘汰の歴史が行われたことになる。

というのも、こんな嫌なシナリオだって考えつくのだ。

・季節性のAH1は、淘汰されることなく、流行する。
・季節性のAH1は、2008-2009シーズンで、99%近くタミフル耐性(H274Y変異があったウイルス。H274Yとは、ノイラミニダーゼというタミフルが標的としている酵素の274番目のアミノ酸がヒスチジンからチロシンに変異している、という意味。この変異が耐性を生む。)であったことから、季節性AH1と新型インフルとが混合感染したヒトの体内で、「タミフル耐性の新型インフルエンザ」が出現する。
・新型かつ、タミフル耐性の「超新型インフルエンザ」は、遺伝的に見て、増殖能力が高い(通常、薬剤耐性ウイルスは、増殖能力が低く、出現しても一瞬で淘汰されて問題にならないが、上記のような掛け合わせだと、増殖能力を一定に保持したまま、タミフル耐性になりうる)。
・新型インフルエンザは、次の冬季(2010年-11年シーズン)にも大流行を起こすはずだが(というのも、「アジアかぜ」という過去のパンデミックでは、2シーズンの大流行があり、かつ、2シーズン目の方が死者が多かったという歴史がある)、そのときに「タミフル耐性」の「超新型インフルエンザ」となって、さらなる猛威を振るうだろう。
・現在、抗インフルエンザウイルス薬としては、70〜80%程度がタミフルで、20〜30%がリレンザという薬剤が使われているが、タミフル耐性を忌避して、リレンザの使用量が急速に増加する。しかし、リレンザの生産量は、前年の生産量を参考に設定されているため、一気に需要が供給を上回り、医療現場では混乱が生じる。(ただし、今のところ、H274Y変異のみでは、タミフル耐性になるものの、全く臨床的な効果がなくなるわけではない。タミフルを使用したとしても、一定の効果は得られるのである(タミフル耐性、とは「タミフルが効きにくくなっている」という意味ではあるが、全く効かないわけではない。タミフルを服用した場合の血中濃度は大体500〜1500nMと言われているが、仮に野生株のAH1が耐性を獲得して300倍タミフルが効きにくくなっても、まだ効果は望めるというデータがある))。

というわけで、季節性AH1が淘汰されて、新型インフルエンザが流行するのは、実は「タミフル耐性」の新型インフルエンザを出現させないためには、「いいこと」なのだ。

さて、つらつらと素人考えを述べてきたが、本当に恐ろしいシナリオは別にある。
しかし、もう深夜1時20分。
今日の所はこころらへんで筆を置こうと思う。

僕は、またしばらく空想に耽ることになるだろう。

listening to 「Nothing」