2011年6月27日月曜日

092. ブロニカS2 > 自分(時を超えるカメラ)


また買ってしまいました。

今回は、「ブロニカS2」というカメラである。





6×6の中判一眼レフで、1965年7月から発売されたカメラだ。
(※ちなみに、この記事は2011年7月10日頃に書いたものを編集しています。)

ブロニカの系譜をごく簡単に振り返ってみよう。

・ブロニカD 1959年〜
初代ブロニカ。ハッセルライクなデザインでコンパクト。クイックリターン機構搭載やフォーカルプレーンシャッターによる1/1250のシャッタースピード等、高性能が売りだった。創業者の「吉野善三郎」氏の理想を具現化したカメラと言える。なお、「ゼンザブロニカ」という名称は、創業者の「ぜんざぶろう」から来ていると言われているが、真相は、「ブローニー判(中判)のカメラ」で「ブロニカ」、それに新規参入第一弾のモデルということで「前座」=「ゼンザ」が付き、「前座のブローニーカメラ、ゼンザブロニカ」となったらしい。もちろん、結果として「善三郎」と引っかかっている点もポイントだ。クイックリターン機構はスウェーデンの高級機、ハッセルブラッドも搭載しておらず、ブロニカDは当時、最新鋭の高性能中判一眼レフだった。ただし、値段もそれに見合った高級仕様で、その結果、販売に苦しむことになる。このため、これ以降のブロニカは、機能を縮小し、廉価版に転化していく形で新機種が生まれていく。初代がスゴすぎたが故の、不思議な変遷である。

・ブロニカS 1961年〜
機能を制限して、かつ大型化した普及モデル。S=スタンダードの意味。だが、それでも十分高級機だった。

・ブロニカC 1964年〜
フィルムバックを固定し、シャッタースピードも1/500に落とした、大幅な簡略化モデル。普及版を狙った一作。

・ブロニカS2 1965年〜
ブロニカの歴史で、最後のフルメカニカル、フォーカルプレーンシャッター機。
そして、値ごろ感もあり、一番売れたとされる機種でもある。



まず、ぱっと見た瞬間に思ったのは、
「ハッセルより、随分やぼったいなぁ」
だった。

それはハッセルより、横幅が大きいことと
巻き上げレバーが不格好なくらい大きく、存在感が強いことによる。

しかし、zenza BRONICAというロゴには、どこか愛嬌を感じた。
Oのところに☆のマークが入っている、字体もユニークだ。

実は、ブロニカは初代のデザインがあまりにもハッセルブラッドに似過ぎていたため、スウェーデン政府から大使館経由で抗議を受けたことがあり、その結果、デザインを大幅に変更している、という歴史がある。

その結果、「こんなんなっちゃいました」という無骨なデザインになったわけだが、
よくよく見ていると、だんだん好きになってくる(笑)

なんというか、幅がある割に、標準レンズは短く、ファインダーを覆うフードが曲線的であるために、「丸っこい」印象を与える。言うなれば、ぽっちゃり体型なのだ。
レバーやレンズは無骨な感じだが、そのぽっちゃり体型と、前述の字体の雰囲気とが相まって、

「無骨かわいい」

という新しいジャンルの格好良さを感じさせるのだ。(1960年代のカメラですけど)

色は、グレーとブラックの二色。
グレーの方は、ハッセル同様、銀色の縁取りがされている。(が、その素材はスチール製であり、スウェーデン鋼のハッセルとは趣が異なるが、これはこれで丈夫で錆びず、評判は良い方だと思う)
一方、ブラックの方は、スチール部分も黒くメッキされており、全体的に黒い。
ただ、スチールのメッキが実にいい感じで、黒い革の間を、ヌメッとした黒い金属が纏わりついているようで、渾然一体となったその黒のボディは・・・とかって何を暑苦しく語っているんだって気もしないではないのだが(笑)まぁとにかく、ブラックにはブラックの良さがあるのである。

一般には、グレーが多いらしい。
僕が中古屋を回って見ていても、グレーの方が多かった。
しかし、個人的にはブラックの方が端正な印象を受けて
「おおう。かっこいいぜ。」と思ってしまった。

しかも、純正フードがまたいいのである。

神奈川県大口にある、とある中古店で買ったのだが、
1時間半程の(熱い)立ち話の後、S2の購入を決めると、
「ちょうど純正フードがあるんですよ。これすごいいいですよ。」
と気さくな店長が、おもむろにフードを出してきた。

つや消しのブラックで、
ちょっと戦車の装甲板を思わせる、
ハードな質感だ。撫でるとざらざらとした凹凸を感じられる。

これが、無骨さをさらに際立たせて、

「KOREMOKUDASAI」

という日本語しかしゃべれなかった。
もう完璧に術中にはまっているのだが、
実に心地良かったことを記憶している。(アフォです)

ただ、もともと、この機種が目に留まったのは、上述のデザインからではない。

「6×6で、標準域で寄れるカメラが欲しい」

という条件に合致したからだ。
6×6で寄れるカメラ=最短撮影距離が短いカメラは、実は結構少ない。

レンジファインダーは1mくらいが限界だし、
ハッセルブラッドに付いているプラナーなども1m〜90cmが限界。(広角レンズは対象外)
6×7であれば、Pentax67の標準レンズが寄れるし、
645でも、Pentax645の標準レンズが寄れるのだが、
6×6となると、途端に少なくなる。
(マイブームは6×6)

接写リングを付けることも考えたが、合焦距離が極端に狭くなるので、「近くの物だけ撮る」と決めないと使えない。付けたりはずしたりは面倒だ。
これはレンジファインダーの接写装置(オートアップ)も同様である。
ローライ等の二眼レフも同じ。

そこへ来て、ブロニカS2に標準装備されているNikor 75 mm F2.8は60cm弱まで寄れてしまう。この数十センチの差は、数で言うと大したことがないのように感じるが、ファインダーを覗くと、大きな違いであることを体感できる。

手の届く範囲に被写体が居る。
というのは、やはり違うのだ。

アラーキーも言っていたように、
「カメラは寄れるのがいい」
と思う。
(しかし、アラーキーはプラベルマキナ67も使っていた気がする。。「寄れる」とは、ペンタ67のことを言っていたのか?→詳しい人、今度会ったら解説お願いします。)


さて、僕のブロニカS2は、シリアルナンバーが「CB52989」で、最初期型のブラックである。
推定発売年は、1965年〜1968年頃。
御年、43〜46歳。
自分より、14〜17歳も年上ということになる。

自分が自分というヒトになる前から、
この物体はカメラという役割を続けている、と思うと不思議な気持ちになってくる。

このカメラは、フルメカニカルで電池を入れなくても動く。
露出計も入っていないので、
電子的な部品は一切ない。
言うなれば、「カラクリ人形」と同じようなものだ。

シャッターを巻いてチャージして、
それを開放して写真を撮る。

シャッターの力学と、
フィルム上の化学
それから、レンズと絞りの光学から
成り立つ装置。

そこに、電気の介在はない。
それ故、比較的丈夫。
(電子式シャッターを使用した70年代以降のカメラは、その基盤が逝かれた時点で、即終了になってしまう。治しようがないのだ。一方、歯車とバネの塊であるフルメカニカル機は、多少なりとも治せる。交換する部品が枯渇してくると微妙だが、それでも、ばらして、掃除して組み直すだけでもかなりの確率で生き返ってくる。)

それが、すでに45年くらい続いているわけだ。

カメラの部品の気持ちになってみると、

どこかの地中に埋まっていた鉄鉱石が、
どこかの誰かに熱せられて、溶かし出され、
歯車の鋳型に入れられ、
集められ、
組み込まれ、
これまで45年間、せっせとカメラを動かしていたわけだ。

ホモサピエンスの特徴的な行動として、「物質の再配置」というものが挙げられると思う。この種が誕生して以来、地球上の物質はその存在位置を変えられ、他の物質と結合させられ、組み立てられ、「機能」を持たされ、ヒトの社会で「意味」を与えられてきた。
その「機能」が時間とともに減衰し、その社会上の「意味」が喪失したとき、その物質は社会から解放され、ゴミとして廃棄され、徐々に熱力学第二法則に従って拡散して行く。


この一連の「物質の再配置」は、その速度を早め、回転している。これからももっと加速していくのだろう。


デジタルカメラの世界は、回転が速い。1年あれば十分に、かつての新製品が陳腐化する。フィルムカメラではフィルムという共通の撮像媒体を新旧のカメラで使い回せたが、デジタルカメラでは撮像素子(CMOSセンサー、CCDセンサー)がカメラ本体に内蔵されており、その素子そのものの更新速度がフィルムよりも格段に早いからだ。


ベイヤー配列から、三次元配列へ。
またベイヤーの配列自体の刷新もあり(正確には色情報を取得する単位が増えている)、ローパスフィルター非搭載機もちらほらと出てきた。
画素数競争もまだ続いている。


また、AFのシステムも、刷新が続いている。一眼レフに搭載される位相差AFや、コンパクトデジカメに搭載されるコントラストAFに加え、最近では撮像素子そのものにAFセンサーを組み込んだ像面位相差AFも出てきた。


像面位相差AFを用いることにより、画像を液晶で表示させながら(ライブビューしながら)位相差AFのような素早いAFが可能となり、特に動画撮影や、EVF表示や液晶表示で撮影することが前提となるミラーレスカメラで重宝される。


まだ光学ファインダー(OVF:プリズムやミラーで反射させた、実際の光学的な像を見る従来のファインダー)から、電子ビューファインダー(EVF:撮像素子で取得した画像を小型の液晶に出力した像を見るファインダー)への遷移も続くだろう。
今の時点では、画像更新速度に問題のあるEVFよりも、従来のOVFの方が優位性を保っているが、液晶の応答速度にはまだまだ伸びしろがあるはずで、いずれ、EVFがメジャーになってくるだろう。


要素技術は順次刷新され、製品サイクルは高速度に回転を続ける。
そんな流れの速い世界で、いつまでBronica S2は、Bronica S2としての存在を保ち続けられるか。


少なくとも僕は大事に使っていこう。