先月、あまりに休日出勤をし過ぎたせいで、本日半ば強制的に代休を取ることになった。
とはいえ、一年で最も忙しい時期だけあって、結局は自宅にてメールをチェックしつつ、関連部署と電話でやりとりしつつ、月曜日のアポイントを入れ、飛行機の予約を取り、取引先と電話し、契約書の疑義事項を法務部と詰め、チーム員に報告書の書き方についてアナウンスのメールを出し、、と、「なーっんだ家でも十分仕事になるじゃないか。」と、思い知ったものである。
とはいえ、せっかくの休みをいただいたので、ずっと仕事をしてるのももったいないなと、買い物に出かけた。僕の予想に反して、平日の渋谷は休日のごとく人で溢れていた。
うーむ、この人達は仕事をどうしているのだろう?
と思いつつも、とりあえず目当ての「灯油ポンプ」と「まな板」を購入。
・・・地味だ。
あまりに地味な買い物に我ながら苦笑してしまう。
わざわざ若者の街、渋谷で買う必要があるのだろうか?と思われてしまうかもしれないが、目黒付近で一番買い物がしやすいのが渋谷なのだから仕方がない。
もしも、ホームセンターが近くにあれば、迷いなくそちらを選ぶだろう。
帰りしに恵比寿にある紀伊国屋という酒屋でワインとシャンパンを購入。なんとか最後の買い物で「おしゃれ感」を演出しようと試みたわけだが、一体誰に対するアピールなのかは不明である。
さて、帰宅後にもう一度メールをチェックして、いくつか返信をし、腹が減ったのでもう一度外出。松屋で腹ごしらえをした後、スターバックスでコーヒー豆を買う。
僕はコーヒーが好きで、特に冬の朝は顔を洗う前にコーヒーを煎れるのが習慣になっている程、僕の生活に欠かせない。
ところで、あまり知られていないが、スターバックスにはCOFFEE PASSPORTという、コーヒー豆のスタンプラリーのような物がある。
スターバックスのコーヒー豆は世界中の様々な地域(主に、ラテンアメリカ、アジア、アフリカ)から集められており、そのブレンドにはそれぞれ特徴的な名前とロゴデザインが与えられいる。このパスポートは,そのロゴデザインをスタンプラリーのように集めることができる。
気の利いたことに、その豆が採られた地域まで地図で示されているため、
「まるで、香りと味の世界旅行だなぁ。」
などと思ってしまう。
本物のパスポートでは出入国のスタンプが押されるわけだが、このCOFFEE PASSPORTではコーヒーのロゴデザインが貼付けられるわけだ。これは日本にいながらにして、世界を探検しているような気分にさせてくれる。
また、
「お前、はるばる中南米からやってきたのか。」
と、感慨に耽ることもできる。スターバックスもなかなか粋な計らいをしたものである(もちろん、それが顧客のリピート率を上げる戦略であることも承知の上だが)。
さて、そんなわけで、コーヒー豆国をまた一国制覇し、僕はHMVへと向かった。最近新しい音楽をあまり聴いていないので、久しぶりに新譜をチェックしてみようと思ったのだ。
いつものように、日本のメロコアバンドを一通り視聴して、
「やっぱり、想像の域を出ないなぁ。」
と失礼ながら思ってしまった。毎度思うことなのだが、ある特定のジャンルが確立されると、その「様式美」をとにかく追求しようとするベクトルが生じるらしい。みなこぞって、
「The best of メロコア」
や
「The best of パンクロック」
を目指しているように思えてしまう。
もちろん、その過程で、それぞれのバンドの個性がキラリと光ることもあるけれど、一定の様式美の範疇から外へは出ない(ように思える)ことが多い。
(ただし、様式美そのものが全て悪だとは思っていない。様式美には、様式「美」があるのだ。それはそれでOKである。ただし、聴きすぎると、結構簡単に飽きてしまうという副作用がある。)
僕は特別音楽には詳しくないけれど、毎回、視聴する度に、
「ヤられた!そこでこのギターソロか!!」
みたいな、楽曲が持つ意外性を探してしまう。
さて、日本のメロコア新譜を一通り聴いた後で、僕が向かったのは、British Rockのコーナーだった。とか言ったら、少しはおしゃれかもしれないが、実際は、ヘヴィメタルコーナーだった(笑)
ヘヴィメタ雑誌「BURRN!」がどんッと鎮座したコーナーは、いかにもDMC(漫画デトロイトメタルシティー)の世界(つまり、パーマのかかった胸の辺りまである長髪のおっさんが、やたらと鋭角なギターを片手にポーズを取っている世界)であり、毎回、ここで視聴することに一抹の羞恥心を感じてしまう。
「い、いや、僕は別に『デス! デス!」とかつぶやきながら、頭を縦に振ったりしませんよ!?」
と、一目を気にしながらヘッドホンを手に取る。
流れ出すのは、重く速いギターリフとユニゾンしたベース、そして鼓膜に突き刺さるようなツーバスのドラムである。
一体どうやったら、こんな音を人間が出せるのか?まるで銃口が耳に向かって突きつけられているような感覚だ。全く演奏している状況を把握できない程、暴力的に音の波は僕の耳を叩き付ける。
「そうそう、やっぱりこれだよ。」
僕は演奏の「技巧」を追求していくと、どうしても、ヘヴィメタルに行き着いてしまうなぁといつも思っている。人間の極限に迫るかのような演奏は、どのジャンルよりも真に迫っている。
しかし、、である。
僕は先に、メロコアシーンに対して示したように、「様式美」という檻は、このヘヴィメタル界にこそ、より厳然としてあると言って過言ではない。
思うに、ジューダス・プリーストやアイアンメイデンといった老舗の大御所が、あまりに完成度の高いヘヴィメタルの様式美を確立した上に、いつまでもいつまでもシーンの頂点に君臨し続けたのが原因だと思う。なんせ、ジューダス・プリーストは1969年というヘヴィメタルの最初期から、2009年現在まで、30年間もずっと「メタルゴッド」なのだ!
このため、今回聴いていた「SLAYER」のアルバムも、2曲目にてダウン。
「うむ。メタルであったな。」
という感想しか持てない。
確かに技巧は最高なんだけれど。
これまでヘヴィメタルは様々なサブジャンルを産み、異分野との融合も図られてきた。その結果、スラッシュメタル(例えばSLAYER、Anthrax、メガデス、メタリカ)、デスメタル、ネオクラシカルメタル(例えば、イングヴェイマルムスティーン)、オルタナティブメタル、メロディックデスメタル(例えば、ARCH ENEMY)、メタルコア、ラウドロックといったサブジャンルがたくさん出来上がっている。
しかし、僕はもっともっと、シーンを跨いで、突拍子もない分野と融合してほしいなぁと思っている。
例えば、メロコアであったり、ヒップホップであったり、フォークであったり、ポップスであったり。
というのも、ヘヴィメタルが持つ様式美は、それ単体ではすぐに「もうお腹いっぱい」になってしまうものだが、例えば、曲の一部、とりわけメロコアなどのアップテンポな曲の「間奏」として取り入れたら、リスナーの度肝を抜けること間違いなしだからだ。
僕がメロコアやパンクロックに物足りなさを感じてしまうのは、ギター、ベース、ドラムに活躍の場があまり用意されていないからだ。みんなほとんど一斉に演奏して、全力で駆け抜けて、歌って、疾走したまま終わってしまう。もちろん、曲のスタートでは徐々に音を重ねていく、等の試みは見られるが、気付けば全員がフルスロットルで突っ走っている。
こうなると、結果として目立つのは、ボーカルの声のみということになる。この結果、ボーカルの歌とルックスが重視されるお決まりのパターンが始まってしまう。
「ああ、もっとギターが前に出ないと!ベースも、もっとずんずん刻んでいいのに。ドラムだってもっとキャラ立ちできるはずっ!」
と、僕は、活きのいい若手バンドを聴く度に、思ってしまう。
さて、僕が思うそれぞれの楽器の「活躍の場」とは、つまり「ソロ」である。
バンドとして、渾然一体となって演奏と歌をやる、というのはバンドがバンドたる所以であり、バンド冥利に尽きるところでもあるはずだけれど、せっかくバンド(異なる楽器を演奏する集団がひとつのグループとして名乗っている)なのだから、個々のプレーヤーがそれぞれの地位でアピールする場面が多くてもいいんじゃないかなぁと思う。バックバンドではないのだから。
そういう意味では、ヘヴィメタルは「ソロ」を重視する文化があり、その文化に育まれているからこそ、ギターにせよベースにせよ、「見せ場」を意識した楽曲となっている。また、ソロで目立つために、異常な程、技巧を高めまくっているのも事実だ。
そういったわけで、僕はメロコアバンドの曲を聴いている時に、
「ああ、ここでヘヴィメタのギターソロが入ったら・・・!」
などと、不謹慎にも思ってしまうのであった。
さて、SLAYERの次に聴いたのは、ARCH ENEMYというメロディックデスメタルのバンド。これがまたすごい。もはや野獣がそこにいるのではないか?というくらい、ギターもベースもドラムも、そしてもちろんボーカルも猛々しく嘶いている。
このボルテージ、この密度。
恍惚とした表情で、ヨダレを垂らしそうになりながら、僕はヘヴィメタルの世界に入り込んでいた。
歌詞はほとんど聞き取れないが、おおよそ、「デス!」だとか「モンスター!」だとか「悪魔!」だとかを叫びまくっているんだろう。
ああ、それでもいいっ。
この音、かっこ良すぎる・・・!
「ヴォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
と、人間のものとは思えない凄まじいシャウトがこだました瞬間、
「ヴヴウウウウウウッ」
と携帯が鳴った。
「はい、もしもしっ(汗)」
「もしもし?今大丈夫ですか?」
「あ、 (ダッシュでHMVの外へ出る) はい。大丈夫です。」
「契約書の件ですけど、法務部の校閲が終了しまして、先方の確認も取れたんで、FIXです。」
「あー!ありがとうございます!助かります。」
「それで、捺印の手順は通常の費用の覚書と同じでいいですよね?」
「はい、もちろんそれでお願いします。いや、今回は本当に助かりました。ありがとうございます!すみません、お手数をかけてしまって。」
「いえいえ、すみませんね。こちらこそ。お休み中なのに電話しちゃって。」
「いやいやいや、こちらこそ提出が遅くなってしまったんで。本当にありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそ。それじゃあ失礼します。」
「失礼いたします。」
・・・あっぶねー。
っていうか、人間って意外と一瞬で、
ヘヴィメタの「デス!デス!」の世界から、
ビジネスの「すみません!ありがとうございました!」
の世界に立ち戻れるのだな。
そんなことを考えながら、視聴機に戻ると、僕が聴いていたARCH ENEMYが流れ続けていた。ヘヴィメタはやっぱり人気がないらしい。
僕は何事もなかったかのように、ヘッドホンを取ると、また「デス!デス!」の世界へと戻って行った。
(ちょっと、リアルDMCだよな。)
と思いながら。
listening to 「Broke/ ( Hed ) P.E.」